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日々の天気と地球の熱輸送 - 気象の変化の根本原因(2022年09月)
2022/10/03
地球はあの手この手を使って赤道の熱を北極へ運ぼうと努力しています。今回は日々の天気の根本的な原因でもある、地球の熱輸送についてお話します。
赤道で熱せられた空気は軽くなるので上昇し、上空を北極へ向かって移動します。ところが、移動中に熱を奪われるために志半ばの北緯30度付近で下降気流となって地上へ降りて、地表付近を赤道へ戻って行き、再び熱せられて上昇します。この循環はハドレー循環と呼ばれ、赤道の熱を北緯30度付近へ運んでいます。一方、北極の冷たい空気は地表付近を赤道目指して南へ向かいますが、途中で熱を吸収するため暖かくなり、やはり志半ばの北緯60度付近で上昇し、上空を北極へ戻り、冷やされて下降して再び赤道を目指します。この循環は極循環と呼ばれ、北緯60度付近を冷やします。この結果、日本を含む中緯度は、南は赤道からハドレー循環で運ばれた暖気に、北は北極から極循環で運ばれた冷気に挟まれて、南北の温度差が大きくなっています。空気はとても優れた断熱材なので、このままでは北緯30度付近から北緯60度付近へ熱が伝わりません。循環による熱輸送
それならば、中緯度でもハドレー循環のような循環で南から北へ向かって熱を伝えれば良さそうですが、循環は相対的に暖かい所で上昇し、冷たい所で下降しなければなりません。中緯度で循環により熱を伝えようとすると、相対的に暖かい南側の北緯30度付近で上昇させなければなりません。しかし、北緯30度付近はハドレー循環のために下降気流となっており、中緯度では単純に循環を利用するわけにはいきません。そこで地球は偏西風という裏技を使います。南北で温度の差が大きく、かつ回転する球体である地球の中緯度の上空では、風は暖かい方、すなわち南側を右に見て吹く性質があります。このため、日本の上空は常に偏西風と呼ばれる西風が吹いています。偏西風は蛇行することによって地上天気図で見慣れている低気圧や前線、高気圧を作り出します。これらは雨や晴れをもたらせていますが、その過程において平均すると北側の冷たい空気と南側の暖かい空気を交換しています。結果的に偏西風は熱交換器の役割を担っているわけです。中緯度にある山梨県の日々の複雑な天気変化は、実は地球がハドレー循環で運んだ熱を一生懸命極循環へ渡すために裏技を使っているために生じているのです。この現象は全体的に見ると、見かけ上ハドレー循環と極循環を橋渡しする循環にも見えるためフェレル循環とも呼ばれています。地球の裏技、偏西風
なお、台風はこれらの循環とは別に、それ自身が熱の塊で、赤道の熱を中緯度へ運び込む熱の運び屋なのです。そして運び屋の使命を終えると偏西風の元で温帯低気圧に変化して熱交換器の一部として、極循環に熱を渡すために第二の人生を送ります。台風は熱の運び屋
最後に宣伝です。日本ネットワークサービスの自主放送11chで「お天気妖怪北野さん」を月1回放送しています。気象現象の諸々は、もしかしたら妖怪の仕業かもしれない、をコンセプトとしたユニークな気象バラエティー番組です。YouTubeのNNS公式チャンネルにもアップしています。「お天気妖怪」で検索してもアクセスできます。お天気妖怪 北野さん
四季折々の気象現象を、甲府盆地を中心に紹介していきます。「あの現象はそうだったんだ」と理解が進めば幸いです。コラム趣旨
北野芳仁
1981年4月山梨日日新聞社入社、2000年3月気象予報士取得、2018年1月から日本ネットワークサービス(NNS)気象情報室長、現在に至る。甲府市出身。
日本ネットワークサービス(NNS)気象情報室
2018年1月発足。県内唯一の気象庁の予報業務許可事業者。多様なメディアで気象情報を発信しているほか、気象講演での講師派遣やお天気教室の開催、気象コラムの執筆や気象に関するコンサルタントも行っています。
※本記事は甲府商工会議所だより2022年09月号に掲載しました。
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