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サクラの季節 - 開花予想に毎年ヤキモキ 12年ぶりに標本木が交替(2023年03月掲載)
2023/04/03
世界中で、日本人くらいサクラの花をこよなく愛する民族はいないかもしれません。開花を待ち焦がれ、花見の宴を楽しみ、散りゆく姿に人生のはかなささえ感じ取ります。3月はそんなサクラの開花の季節。今年も開花予想にヤキモキする日々がやってきました。今回はサクラ開花観測の過去、現在を振り返ります。
まず現在の話題。気象庁の公式な気象観測の中に生物季節観測があります。生物の動向を観測して季節変化を追い、気候変動などの参考にするのが目的です。2021年1月に観測項目が大幅に見直され、現在6種目9現象が観測対象となっていて、サクラの開花と満開もその中に入っています。甲府のサクラの観測は、甲府市飯田4丁目の甲府地方気象台敷地内にあるソメイヨシノで行われています。対象の木は標本木と呼ばれます。観測データは1953年からを公表していて、既に70年の歴史があります。甲府地方気象台にある標本木
今年の観測から標本木が新しくなりました。初代から数えて4代目になります。3代目が2011年デビューなので、12年ぶりの交替となります。3代目の観測結果と比較をしながらの4代目選定で、統計データの継続性を担保しています。4代目の初開花発表がいつになるのか、今から楽しみです。ちなみに、開花発表は、職員が標本木に花が5~6輪以上咲いたことを確認すると出されます。開花予想の歴史を振り返ると、早かった遅かったで、結構振り回されてきました。今は民間の気象会社が開花予想を競っていますが、かつては気象庁が開花予測を行っていました。その歴史は古く、各地の気象台で明治末頃から始まり、1955年からは全国が対象(沖縄、奄美を除く)になりました。予想方法は今回割愛しますが、あくまで予想なので、実際の開花とは前後することもあります。開花早まり混乱も
各地のサクラ祭りは、ちょうど見頃の時期を狙って行われますが、サクラは開花から満開までが1週間前後と短く、見頃の時期が限られます。年々、サクラの花見への関心が高まるにつれ、予想への期待値も高まる一方でした。
そうした中、2002年に大きな騒動が起きました。当時の開花予想の発表は2週間に1回。この年は3月5日に1回目の発表があり、甲府の開花予想は3月22日でした。2回目の発表は3月19日でしたが、発表を待たずに17日に観測史上最速で開花してしまいました。サクラの名所は大慌て。サクラ祭りの日程を急きょ前倒しするなど対応に追われました。気象庁はこれを教訓に、翌年から開花予想の発表間隔を「3月初めから4月第4週まで毎週水曜日に発表する」と、1週間間隔に縮めました。そして2010年には「民間の予想精度が十分に向上している」と開花予想から撤退。開花予想が「官から民」へ移行し、今に至っています。ところで、「サクラ前線」という言葉をこの時期よく耳にします。これは気象庁の正式用語ではありません。気象庁は開花が同じ日を結んだ線を等期日線図と呼び、開花予想していた当時は「開花予想の等期日線図」として発表していました。「サクラ前線」は1970年代後半から80年代初めに、新聞や放送などのマスコミが使い始めた言葉といわれています。もっとも「前線」は本来「戦場で敵と直接に接する最前線」(広辞苑)という意味。天気図の前線は、性質が違う空気が接して「戦っている」場所。そんな荒々しい前線が、サクラと結びつくと美しい響きのある素敵な言葉に変身します。世界中の争いの前線に、サクラを送りたい思いです。サクラ前線はマスコミ用語
四季折々の気象現象を、甲府盆地を中心に紹介していきます。「あの現象はそうだったんだ」と理解が進めば幸いです。コラム趣旨
北野芳仁
1981年4月山梨日日新聞社入社、2000年3月気象予報士取得、2018年1月から日本ネットワークサービス(NNS)気象情報室長、現在に至る。甲府市出身。
日本ネットワークサービス(NNS)気象情報室
2018年1月発足。県内唯一の気象庁の予報業務許可事業者。多様なメディアで気象情報を発信しているほか、気象講演での講師派遣やお天気教室の開催、気象コラムの執筆や気象に関するコンサルタントも行っています。
※本記事は甲府商工会議所だより2023年03月号に掲載しました。
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